混雑緩和の切り札?元阪和線の223系。臨時で出された嵯峨嵐山行き。

MBSニュース:“混みすぎ”の京都 観光客らの危険行為・大混雑のJR嵯峨野線・大行列のタクシー乗り場など課題多数…解決に向けて知事やタクシー協会が動く
京都新聞:通勤ラッシュ並み混雑のJR嵯峨野線「減便から元に戻して」 京都府知事が異例の要望京都新聞:京都・嵯峨野線が激しい混雑、実際に乗ってみると・・・ JRに増便予定はあるのか
そんな混雑が問題となっている、嵯峨野線に乗ってみると、色々と疑問に思うことが少なくありません。個人的に考える問題点と改善策について、簡単に述べると、以下の4点となりますが、今回は主にダイヤや車両面を中心とし、最後の京都駅の構造上の問題については次の記事で取り上げます。
1、観光客や地元の通勤・通学等で利用者が多いのに、日中は基本的に4両編成・20分間隔とはあり得ない。まずは嵯峨野線の路線図から、1日の乗車人員と観光地の立地状況、乗り換え路線などを記してみました。
2、車両が基本的に3ドアの2+2列のクロスシートで、詰込みが効かず、混雑を助長。
3、早くコロナ禍前(2017年3月)のダイヤに戻す。それができないなら、日中の快速にメリットはほとんどなく、6両編成以上で普通のみ15分間隔にするべき。
4、京都駅の構造上の問題。
嵯峨野線の1日の乗車人員、観光地等の立地状況、乗り換え路線の状況など(乗車人員は2019年の京都府の統計書より、路線図はJRおでかけネットより)

このように嵯峨野線沿線には観光地の他、学校なども多く点在し、京都~亀岡間は秘境駅とも言える保津峡駅を除いて、どの駅も観光客や通勤・通学など、それなりに利用者が多い駅が連なります(コロナ禍前に戻りつつある状況を考慮し、2019年のデータを掲載)。これを基本的に4両編成・20分間隔で賄おうとしているのが根本的な間違いだと思えます。
沿線で最大の観光地は何といっても、嵯峨嵐山駅が最寄り駅となる、嵯峨野・嵐山エリアでしょう。このエリアには、他に阪急・嵐電・京都市バス・京都バスの路線もありますが、これらと比較してJR嵯峨野線のメリットは、京都の玄関口である京都駅から15分程度と言う、最短・最速でアクセスできる点にあり、これが故に観光客の利用が集中すると言えます。ただし、大阪や神戸などからは、阪急でもアクセスできることから、ある程度は分散しているでしょう。
遡ると、2017年のダイヤ改正では、京都~嵯峨嵐山間の京都市内区間は毎時快速1本・普通4本に増やされ、普通しか停車しない駅であっても、15分間隔・毎時4本の乗車機会があり、京都市内区間を利用する観光客や通勤・通学客にとって、ほぼ理想的とも言えるダイヤでした。欠点を挙げるとすれば、馬堀駅が最大30分程度間隔が開き、割を食った点でしょうか。割を食った点は保津峡駅も同様ですが、秘境駅とも言えるほど利用者が極端に少ない駅なので、特に問題はないでしょう(一応同駅は京都市内の駅になっていますが、個人的には上記の京都市内区間には入れてません)。
2017年のダイヤ改正時点の日中ダイヤ(過去のJR西日本のリリースより)

しかし、コロナ禍による観光客を中心とした、需要減少もあり、2021年のダイヤ改正で、毎時快速1本・普通3本に戻されてしまった経緯があります。さらに、亀岡~園部は毎時2本から1本に減らされています。
JR西日本、2021年3月ダイヤ改正
2023年3月時点の日中ダイヤ(JRおでかけネットより)

昨年秋あたりから段階的に水際対策が緩和され、今年春からは5類移行とともに、完全に日本入国への水際対策が全て撤廃され、インバウンド需要が戻ってきています。しかし、肝心なダイヤは今年の春の改正でも減便したままで、戻されていないほか、両数も多くが4両のままです。特に、今年の桜のシーズン、春の行楽シーズンは需要増加に対応できず、この頃から混雑が問題化してきていると言えます。
そして、車両に関しても全てが3ドアのクロスシートで、詰込みが効きにくく、より混雑を助長している点もあります。特に、ベビーカーや車イスでは乗車不可能な事態も起きています。
この春頃からの混雑はメディアでも多く取り上げられ、利用者からの苦情も殺到したからか、JR西日本もようやく段階的に臨時増発や増結などの対応をとるようになります。
嵯峨野線 混雑緩和に向けた対応について 2023.9.21
嵯峨野線 臨時列車運転・両数変更のお知らせ(9月) 2023.8.22
嵯峨野線 夏の臨時列車運転・両数変更のお知らせ 2023.6.30
特に、秋の紅葉シーズンは1年で一番混雑する時期と言うもあり、様々な対応が取られています。
この秋(10/21~12/10)の混雑緩和に向けた、主な内容この春からは2+1列となっているクロスシートの阪和線から転入してきた223系が嵯峨野線を走行することになりました。この車両は、2+2列のクロスシートとなっている他の車両とは違い、立ち席スペースが広く、詰込みが効き、混雑緩和の切り札とも言えます。ただし、この車両の運用に関して、本来は嵯峨野線で混雑する京都寄りに連結することに専念するべきと言えますが、実際には亀岡・園部寄りにのみ連結されることがあったり、特定の車両への集中が少ない湖西線の運用に入ることもあるなど、疑問もあります。
◎臨時増発(平日18本、土休日20本)
◎両数を4・6両を6・8両へ増結(平日60本、土休日57本)
◎補助いすの利用時間帯の縮小
◎2+1列の座席の車両を一部列車で運転
◎一部特急列車を嵯峨嵐山駅に臨時停車&チケットレス特急券のキャンペーンを実施
京都駅にて。元阪和線223系が亀岡・園部寄りにのみ連結。「これは連結順序が逆やろ」、と思わず突っ込みたくなる。

特急列車の臨時停車に関しては後述します。
これらの対策は小手先のものであって、根本的な解決とは言えません。増発と言っても、既存のダイヤの中に落とし込めただけで、間隔は歪です。一番望ましいことは、やはり京都市内区間を毎時快速1本・普通4本のコロナ禍前のダイヤに早く戻すことです。ここで、京都駅付近で特急”はるか”とも線路を一部供用し、ネックとなる単線空間が存在する、と言う構造上の問題を指摘する点もありますが、コロナ禍前のダイヤを見ると、特段問題はないでしょう。
しかし、JR西日本としては、この先も利用者が増えることがあまり見込めず、車両の新造を抑制して、京都・滋賀エリアから国鉄車両を引退させるなど、車両を削減したこともあってか、コロナ禍前のダイヤに戻すことは躊躇っていることでしょう。
実際に京都新聞の報道で、社長の発言が触れられています。
そこで、コロナ禍前のダイヤに戻せないのであれば、改善策として考えられるのは、以下の3点です。
◎日中は普通のみ15分間隔にする、変に快速にこだわる必要はない
◎両数は最低でも6両以上
◎車両を2+1列のクロスシートか、ロングシートにして、詰込みが効くようにする
京都~亀岡間を普通のみ15分間隔にすれば、実にスッキリとして、メリットも多いと感じます。
普通のみ停車駅でも確実に毎時4本・15分間隔となる他、各駅とも乗車機会や待ち時間が完全に均等となって、わかりやすくなり、列車による混雑率の偏りもなくなります。特に乗り換えが多いとみられる、京都駅での新快速との乗り換えも完全に一定となります。そして、2017年のダイヤ改正では割を食って、最大30分程度間隔が空いていた、馬堀駅でも毎時4本・15分間隔が実現します。保津峡駅に関しては、利用者が極端に少ないので、一部列車は通過させることを考えても良いでしょう。
JR西日本側としても、全体的な本数・車両や人員は特に増やさずに済むと言う合理化も達成できます。
実際に、現在では日中でも混雑を招く一因となっている、2021年のダイヤ改正では、混雑の偏りを防ぐため、朝時間帯の亀岡・園部方面の快速を普通に変更した例があります。
一方、快速をなくすことによる、デメリットを上げるとすれば、快速停車駅同士の速達性が少し低下する点だけです。特に亀岡・園部方面への速達性低下も指摘されるところですが、実際に快速と普通の所要時間差は京都~嵯峨嵐山で5分程度、京都~亀岡で7分程度です。快速停車駅同士は現在、日中に毎時4本の乗車機会がありますが、現状のダイヤを見ても、快速が間に入ることにより、間隔は歪になり、待ち時間もバラバラです。これを普通のみ15分間隔にすれば、このような歪なダイヤも解消されてスッキリし、むしろ平均的な待ち時間は短くなることで、全体的な所要時間が大きく変わることはありません。快速停車駅同士であっても普通のみ15分間隔はメリットがあると言えます。亀岡~園部間に関しては、現在は日中60分間隔に減らされ、さらに速達性の低下で不便になるとの指摘もありますが、以前の30分間隔に戻すことを前提で考えると、普通のみ30分間隔でダイヤは完全に一定になって、わかりやすくなります。
近年、他の路線を見ても、快速(私鉄で言えば急行・準急など)の速達性を捨てて、普通列車(各駅停車)のみにした上で、各駅の乗車機会向上とダイヤの均等化、列車による混雑率の偏りをなくし、一方で全体的な本数は抑制して合理化へと舵を切った路線は多く存在します。
同じJR西日本でも、阪和線の日根野~和歌山間などで例があります。
他にも、神戸市営地下鉄西神・山手線、近鉄奈良線・大阪線の一部区間、JR東海の静岡エリア、JR東日本の仙台エリア、JR北海道の札幌エリアの函館本線などにおいても、同様に普通列車の本数を増やし、快速(私鉄なら急行・準急等)を廃止する傾向があります。この件に関しては、過去の乗りものニュースでも以下のように取り上げられていて、実際に事業者に取材したところも掲載されています。
乗りものニュース:地下鉄の「快速」導入は難しい? かつて運行していても復活できないワケ神戸市交通局の回答(阪神淡路大震災前の一時期に快速を走らせていたが、震災を機に廃止)
「快速は、普通列車の運行間隔を拡げて走らせていたため、混雑する電車と空いている電車が生じるなど、列車により混雑率が大きくばらついてしまったのです。朝ラッシュ時などは列車の運行間隔を拡げるのが難しく、快速は日中のみ、30分間隔での運行に限られていました。
加えて通過駅では等間隔の運行ができず、利便性を損なう結果にもなりましたので、阪神大震災から復旧するなかでダイヤを見直し、快速による速達性よりもダイヤの均質化を図り、普通列車の本数を増やしてきたという経緯があります。」
乗りものニュース:欲しいのは18きっぷ愛好家だけ? 静岡県内の東海道本線に「快速がない」ワケ JR東海の答えは
JR東海の回答(静岡地区に快速の設定は基本的にない)
「静岡地区の東海道本線につきましては、お客様のご利用の多い駅が連続しております。快速列車を設定しても、停車する駅が多くなると予想されるため、到着時間の短縮には大きく寄与いたしかねます。通過駅の乗車機会が減少することにもなり、快速の運転は総合的に判断して、お客様へのサービス向上には繋がらないという考えから、現在の列車体系とさせていただいております」
コロナ渦前のダイヤに戻せないなら、嵯峨野線も上記に当てはまると考え、変に快速の速達性にこだわるメリットは感じられません。よって、普通のみ15分間隔の方がメリットは多いです。
あと、車両面に関して、両数は最低でも6両以上は必要です。京都駅の構造上の問題があるとは言え、4両では亀岡・園部寄りの車両でも発車直前には混雑していることが多いので、4両では輸送力不足なのは明らかです。
さらに、車両を元阪和線の223系のように2+1列のクロスシートにするか、ロングシート化するのも一つの改善策です。ただし、梅小路京都西駅に3ドア用のホームドアがあるため、4ドア車両は入れません(快速のみなら不可能ではないが)。
近年、他の路線を見ると、同じJR西日本でも奈良・和歌山エリアの227系はロングシートに踏み切ったほか、さらに名古屋エリアの中央西線、福岡・北九州エリアの鹿児島本線など、ロングシート化に踏み切る路線は出てきています。ちょうど最近、JR九州はロングシートへの改造を公式に公表しています。
JR九州:813系電車ロングシート化します
嵯峨野線でも、まずは特に混雑が激しい、一番京都寄りの車両だけでも、全て2+1列のクロスシートにするか、ロングシート化を検討する必要は大いにあるでしょう。実際に阪神では、大阪梅田や神戸三宮などで出口が近い、両先頭車のみロングシート、その他の中間車両はクロスシートと言った例はあります。
最後に、この秋は土休日に限り、一部の特急きのさき・はしだて・まいづるが、嵯峨嵐山に臨時停車する措置が取られ、さらにチケットレス特急券でのキャンペーンも行われています。
一部特急の嵯峨嵐山駅臨時停車&チケットレス特急券のキャンペーンのポスター
しかし、これに関しては少し疑問も感じます。本来、これらの特急列車は京都市内から、京都府中部・北部の丹波・丹後地域、さらには兵庫県北部の但馬地域への長距離利用者向けであり、京都市内区間の短距離利用者向けの列車ではありません。嵯峨野・嵐山の観光客を、丹波・丹後・但馬地域へも呼び込むのであれば、嵯峨嵐山駅停車はメリットがあると言えますが、普通列車の本数が増やせないから、苦肉の策として嵯峨嵐山駅に停車させると、本来の利用対象である長距離利用者が乗れない事態も起こり得ます。嵯峨嵐山駅に臨時停車させるとすれば、長距離利用者の事前予約が少ない時に(全席指定なので事前の予約状況は把握可能)、安価な料金設定にすれば、ジャパン・レールパスの利用者や、10分程度であっても料金を追加して混雑から逃れたい利用者にとってはメリットがあり、また特急料金収入も見込め、さらにそれによって快速・普通の混雑が少しは緩和されると言うメリットはあります。
12月となり、もうすぐ来年春のダイヤ改正が公表される時期になりましたが、嵯峨野線のダイヤ改善は急務と言えるでしょう。
次の記事では、京都駅の構造上の問題について取り上げます。









